大判例

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高松高等裁判所 昭和30年(う)135号 判決

弁護人Aの控訴趣意は別紙に記載の通りであつて、要するに本件被告は法人である株式会社であり、自然人でないから懲役刑には処せられず本件犯罪によつては罰金のみに処せられることがありうるのであるから、本件罪の公訴時効期間は、その法定刑として五年以下の懲役若は五十万円以下の罰金又はその併科であるにしても、罰金のみにあたる罪として三年であり、本件の公訴提起の日である昭和二十九年十二月二十八日までに完成しているから、免訴の言渡があるべきであると言うのである。

一、本件記録を精査し総べての証拠を検討するに

原判決挙示の証拠により

被告会社は和紙である仙貨紙及び再製クラフト紙の製造販売を業としていたが、その取締役社長高橋徳夫は、同会社の職員中尾幸夫をして、昭和二十四年四月休業申告をして爾来休業していた同会社の業務として、その業務の再開届をしないまゝ、昭和二十五年七月から同年十二月までの間同会社が製造した和紙を左記一覧表記載の通り、徳島県麻植郡山川町恵下二番地の同会社の製造場より移出販売しながら、このことを制規の帳簿に記載させず且つその製造場から移出した数量の申告をさせずして、その移出総量八二一連(一連は五〇〇枚)、一〇七一枚、五九貫二〇〇匁に対する物品税一二四九三〇円を不正の行為を以て逋脱した原判示事実を認めることができる。

一覧表

移出の日時

移出数量

移出価格

物品税額

昭和二五年七月

和紙一五〇連四四一枚

三〇一、一三一円

三〇、一一〇円

同年八月

〃五〇連

一〇〇、〇〇〇

一〇、〇〇〇

同年九月

〃五九貫二〇〇匁

一一八、二〇八

一一、八二〇

同年一〇月

〃二六八連四三〇枚

三五三、四二三

三五、三四〇

同年一一月

〃五二連

八四、五〇〇

八、四五〇

同年一二月

〃二二一連二〇〇枚

二九二、一七〇

二九、二一〇

合計

八二一連一〇七一枚五九貫二〇〇匁

一、二四九、四三二

一二四、九三〇

一、右高橋徳夫、中尾幸夫の被告会社の業務執行としての所為は、昭和二十五年十二月法律第二八六号附則第七項により同法律による改正前の物品税法第一条己類七十第二条第十八条第一項第二号第二十一条に該当する物品税法違反罪で、その法定刑は五年以下の懲役若は五十万円以下の罰金又はその併科であり、被告会社は右物品税法第二十二条により右法定刑のうち罰金刑のみが科せられることになるのであることは論旨の通りである。しかしこれがため被告会社に対する関係において右罰条の刑は罰金のみであるから、被告会社に対してはその罪の公訴時効期間は刑事訴訟法第二百五十条第五号により三年であると速断することはできない。

刑事訴訟法第二百五十一条には「二以上の主刑を併科し、又は二以上の主刑中その一を科すべき罪については、その重い刑に従つて、前条の規定を適用する」、同法第二百五十二条には「刑法により刑を加重し、又は減軽すべき場合には、加重し又は減軽しない刑に従つて、第二百五十条の規定を適用する」、同法第二百五十条には「時効は左の期間を経過することによつて完成する(一乃至三号省略)四長期十年未満の懲役又は禁錮にあたる罪については五年、五長期五年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金にあたる罪については三年(六号省略)」とあつて、罪の公訴時効期間の算定の基準となる刑は、刑の選択、その加重減軽をする前の刑罰各本条の法定刑中の重い刑であること明瞭であり、心神耗弱、中止未遂等等のような法律上当然減軽せられるべき場合にもその減軽前の現実に科せられることのない重い法定刑が時効期間算定の基準となる趣旨と認められるのである。前示物品税法第二十二条に「法人の代表者又は法人若しくは人の代理人使用人其の他の従業者其の法人又は人の業務又は財産に関し第十八条乃至第二十条の違反行為を為したるときは行為者を罰するの外其の法人又は人に対し各本条の罰金刑を科す」とあるのは、その各本条の法定刑を変更して罰金刑のみの法定刑とする趣旨ではなく、その各本条の法定刑中その罰金刑のみを科すと言う趣旨であり、この場合其の法人又は人に対しては、その法人であるか自然人であるかによる区別なく、懲役刑が科せられることがないにしても、その各本条に法定刑として罰金刑の外に懲役刑があるときは、その罪の公訴時効期間の基準となる刑はその懲役刑であることは前敍の説明によつて明らかである。

要するにある罪の公訴時効期間は、その罪自体について一定しおり、その適用を受ける者が自然人であるか法人であるか、累犯等等のため法律上当然刑の加重ある場合又は心神耗弱、中止未遂等等のため法律上当然刑の減軽ある場合によつて、異なるものではなく、その刑罰本条の法定刑中の重い刑に従つて一定しているのである。本件の場合公訴時効期間は、刑罰本条である前示昭和二十五年十二月法律第二八六号による改正前の物品税法第十八条第一項の五年以下の懲役若しくは五十万円以下の罰金又はそれらの併科の法定刑中重い懲役五年の刑に従い刑事訴訟法第二百五十条第四号により、五年間であり、本件に対する公訴提起までには未だその時効は完成していなかつたものと認められるのである。

原判決は「本件の如く所謂両罰規定に因つて法人が罰金刑を科せられその責任を問われるのは、その行為者が違反行為をしたのに胚胎するものであつて、その責任は行為者本人の責任に当然随伴し、従つて、行為者本人について法規上その責任の存続するものと定められている限り、法人の責任は消滅しないものと解する」との説明(東京高等裁判所昭和二九年一月二一日判決参照)をしているが、元来公訴時効期間の問題は刑事手続法上の問題であるのにこれを責任の存続、消滅と言う実体法上の問題として解決しようとしたところに無理があるのみならず、行為者本人の死亡その他時効以外の事由によつて行為者本人の責任が問われなくなつた場合におけるその法人又は人に対する公訴時効期間は如何に考えられるかの問題は、原判決の説明によつて解決せられないのである。

以上の通りであつて論旨は理由がない。

(裁判長判事 坂本徹章 判事 塩田宇三郎 判事 渡辺進)

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